サイレンサーのノム(N)とハルカ(H)が様々なゲストドクターと対談していく本企画。第3弾は「AKAI」の赤井顕治氏。

「美味しい」の構造

赤井顕治/ シェフ
広島宮島でのレストランAKAIの主宰。近郊で採れる食材を中心にコース料理を提供している。趣味は格闘技観戦。

N
顕治のことを自己紹介するとどんな感じになるのかな。

A
言葉にすると、まとめるのが難しいですね。自分の中でキーワードにしてることは何個かあるんで、それを挙げることは出来ます。

例えば、ナチュラルさだったりとか、あとはシンプルさだったりとか。コースでいうと食後に疲れない感じが好きなので、それを意識してますね。

N
AKAIの唯一無二なところって、心地よい食後感とストレスのない料理なんじゃないかなって。いろいろなとこへ食べに行ってるけど、そこに照準を当てたレストランとかあまりないから。

釣甘鯛鱗焼

A
そもそも、食べることが疲れるなっていう感覚は、最近感じることなんです。ここ3年間の自分の食生活の変化だったり、身体の感受性の変化が影響しているような気がします。なので今は負担が少なく、よりピュアに感じられる美味しさを求めていますね。

H
そんな赤井さんの料理を伺いながら、誰もが感受している「美味しい」の正体を一緒に考えていきたいと思ってます。

ある著書を参考にしたところ、「美味しい」は大きく分けて4つあり、
1つ目は生理的な欲求。例えば運動をし、汗をかいた後に塩分を含んだ物を身体に入れると美味しく感じる。これは、身体が本能的に塩分を必要としているから。また、寒いときに、暖かいものが癒されるとか、そういう生理的な欲求や身体的な条件でおいしく感じる。

2つ目が民族性とか文化性。日本人だと、醤油や味噌などの大豆を発酵させたものなど、昔から食卓によくあがり、慣れ親しんだものをより美味しく感じられる。他の地域や文化でも同様のことが言えると思います。

A
要は、DNAに組み込まれた味ってことですね。

H
そういう美味しさですね。で、3つ目が脳には報酬系という神経回路があるんですけど、そこを刺激することで、美味しいと感じます。
報酬系は、満足や達成感などの感情を司どる場所ですが、脂質とか糖質とかアミノ酸でそこを刺激できるんですね。

4つ目は情報で得る美味しさ。ここは三つ星レストランですよとか、著名人が絶賛してたとか。なんらかの情報が美味しく感じる元になっている状態。そうなってくると、予め美味しいものだという先入観が働き、脳で味わっていることになる。

口の手前で美味しい料理

廿日市の冬野菜のがんもどきと白菜

A
なるほど、3つ目と4つ目の美味しさは、僕は扱いたく無い領域ですね。言い換えると「口の手前で美味しい料理」って言葉が自分の中にあるんですが、これがあんまり好きじゃないんです。

とある日本料理店での食事で、うなぎが出てきたんですよね。その時に料理人がサーブした際に言うんです。「〇〇産のうなぎで、皮はパリッパリに、身の方はフワっと仕上げてありますので、ちょっと熱々ですけどパクッといってください。」

N
お…お…

A
そう言われると、鰻の印象を食べる前から擦り込まれてしまう。言われた人は純粋に味わえないですよね。ましてやそういう情報が蓄積されると「パリフワな鰻=美味しい」いう固定観念になってしまう。でも、美味しさっていうのは頭(言語的情報)で考える以前に身体で感じたいですよね。

ウチが天然の鰻を提供する時は、皮も正直硬い時もあります。身もふんわりというよりは、しっかりめの食感がある。養殖のうなぎにはない、野生のエネルギーみたいなものがあるわけです。その素材の持っているパワーというか、先ほどのパリッ、フワッ、のすぐ嚙み切れる鰻にはないゼラチン質だったりとか。その海で蓄えた揉まれた、やっぱりその鰻が本来持つフィジカル。僕が諸々を説明せず「鰻の炭火焼きです」って提供して、お客さんがどう感じてくれるかな、というところですね。

N
「感じれ」と。
魚でも肉でも、同じことが言えるよね。情報過多というか、どこで価値の言語化してんだろって。

そうなんですよね。だからジュワッとかトロッが美味しいって感じやすい。さっきの分析の4番目のような「情報で得る美味しさ」っていうのはなるべく避けたい。
なので、自分の理想としている味のひとつに「伸びていく味」というものがあります。こうスーッと余韻が長い味わい。。1口目、口に入れた瞬間にうんまってなるわけじゃないんですけど、咀嚼して、身体の中に入っていくにつれて、旨みが伸びていくというか。それはとても重要な…僕の捉えている美味しさのひとつなんですよね。

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