東京から来てくれた概ちゃん

ゲストドクター 星野概念
精神科医・ミュージシャン・など。 曖昧さや不安定さに向き合う仕事を愛す。精神医学や心理学を少しでも身近に感じてもらうことを考えている。 総合病院での常勤勤務を退職し、訪問診療を主体に行いながら、医療や福祉の外に、医療や福祉のようなものを「ある」ことにする活動を模索している。

死んだふりの10日間

ノム
さて、楽局の対談シリーズ第1弾なんですが。テーマはOFFです。

ハルカ
概念さんは「それぞれの社会生活の中で、OFFになれる居場所を作りたい」と仰っていました。そのような場所があれば、心身の健康を保てるのではないかという話題です。

概念
いつの時代もそうなのかもしれないけど、人間生きていると、何の仕事をして、どんな成果を出して、それにどんな意味があるのか…。といった思考を続けることが必要な社会だと思うんです。誰かに貢献する、役立つ活動を積み重ねることは、いわゆる心身共にONの状態ですよね。

なのでそこからOFFになるには、「この時間は意味があるのか、有益なのか」という思考を手放せると良いなと思います。一旦、ONと感じる精神状態を全部手放す。永遠に手放すのではなくて、手放してどこかに置いておけるみたいな時間や場所があると良いんじゃないかな?というのがきっかけですね。

その見解に辿り着いたのは、少し前にヴィパッサナー瞑想という方法で10日間の瞑想を体験した為です。僕が行った場所は、大自然に囲まれた土地に突如5000坪ぐらいの瞑想施設があり、鳥や獣の声を聴いて、陽の光や風を感じながらぼーっと過ごせる状況でした。

施設の中では、同じ空間を男女20人ぐらいで共有しました。食事は質素で、誰とも何も話せない、目も合わしてはいけない。何も書けないし、読めない。スマホも預けて外界との連絡を一切絶つという時間を過ごす。そうなるともう、降参!みたいな。何もできません!て瞑想するしかない。感覚的には、社会的に1回存在が全くなくなって異世界に行ったみたいな状態になるんだけど、そのぐらい普段の社会生活で必要とされているいろいろなものを手放せたことがすごく良かったですよね。

多分、性格にもすごく合ってたんですよね。楽になれた理由を考えた時に、僕の脳が多動的なんですよ。興味が向くものにボンボン進んでいく。すぐ手を出してしまうし、あれもこれも調べる、何かを書いてる間に誰かに会いにいくとか、とにかく動きまくっちゃうからなおさらなんですけど、その思考を手放すというか、動かなくさせる。そういった日々は自分にとってあまりに新鮮で、意外にもすごくフィットしてたんです。それも10日間って決まっているからできる。永遠にその生活とか、終わりが見えなかったら、きっと逃げ出していたと思います。そんな感覚で日常の中でも、OFFになる時間が少しでも作れると良いんじゃないかな。この社会でずーっと走り続けていると、絶対ばててしまうし。それで疲れて、バーンアウトみたいな状態で診察室に来る人も沢山いたので。

サイレンサーのBar檸檬倶楽部での対談

体内で生まれるOFF

ハルカ
概念さんの思う「OFF」の定義はありますか?

概念
すぐ思いつくことは、「他者と社会の目を気にしない」ということかな。自分を主体にすること。やっぱり生きてると自分の言動が他人にどう届いているのか、色々と周りとの関係性を気にしてしまう。社会的に自分の行動ってどうなんだろう?と気にかけることが「社会」という他者の目を気にしていることになる。友人や同僚とコミュニケーションをとっている時も、相手はどのように自分のことを思っているのかな?とか。そのような「気遣い脳」を長時間使っている気がして。そうではなく、他者との関係性を遮断して強制的に気を休めることができる状態。まずその素地を作ってから、「心地良さ」のような上質なOFFの領域にチェックイン出来たら良いですよね。

人間って本能的に社会性を築く生き物ですよね。だからこそ社会性を壊さないために、めちゃめちゃアンテナを立てまくってる。逆にアンテナを立てられなくなった人は、高齢で認知機能が低下している方などが分かりやすいかもしれません。好き勝手に過ごしたり、徘徊したりとあんまり周りの人のことを気にしなくなってきて。本人は徘徊してるつもりはなく、ただ歩き回りたいから、歩き回って。それが社会的に見たら徘徊になる。もし排泄したくなったら、その場でする事なども社会的には逸脱した行為ってなる。一般的な皆は、ただそういう事をしないだけで。ノムさんは平気で人前でオナラをするけれど、食事の場ではさすがにしないっていうことかな。

ノム
たまにするけど…
でも、今の話はほんとそうよね。

概念
silencer的には、何か身体的な「OFF」の定義はあるんですか?

ノム
今のところの結論は、セロトニンを分泌させることかなと。

ハルカ
社内ではOFFについて2つの仮説が出ました。ひとつめは、ONの対極としてのOFF。興奮や緊張の際に交感神経が優位な状態がONとするならば、安堵やリラックスの際に副交感神経優位な状態がOFFだろうと話したんです。OFFになる時の身体の変化としては、

血管→伸縮から拡張
血圧→上昇から下降
心拍数→高から低
筋肉→緊張から弛緩
腸→蠕動(ぜんどう)抑制から促進(例えば、旅行先とか慣れない場所で便が止まり、家についた途端にホッとしてお通じが出る状態)

これらはOFFの状態と言えるはずです。

ただ、交感神経と副交感神経を有する自律神経は、本人の意志で自由に動かすことはできません。だからこそ、知らぬ間にONの状態が続いてしまうこの社会において、身近な物事を通じて間接的にOFFの状態に入ることができないかと考えてみました。

そして、副交感神経優位のOFFを身体的に獲得するには「神経伝達物質のセロトニンの分泌を 腸、血液、脳の中で上げる」という1つのキーワードが出てきました。方法としては、太陽の光を浴びて網膜を刺激すること、タンパク質を小腸へ届けトリプトファンとの合成を促進すること、深い呼吸やリズム運動で血中の酸素濃度を高くすること、などが挙がったんです。

概念
脳内のセロトニン機能は、冬季にもっとも低下するらしい。これは気温や気圧ではなく日照時間とのみ関連してて、季節性感情障害(SAD)や冬季うつ病とも呼ばれる原因の可能性があります。

セロトニンの前駆アミノ酸であるトリプトファンの脳内移行率は、炭水化物を摂取することによって増大することが明らかとなっているから、冬にかけて落ち込みやすいな、すっきりしないな…と思ったら、糖質と合わせて炭水化物を意図的に摂取すると活力と多幸感が増してくる。OFFになる以前に、ONにもチェックインできないような気分がコントロールできない時にも、セロトニンを意識することは重要だね。

ノム
その流れでふたつめの仮説があるんだけど。OFFになることと同じぐらいONとOFFのどちらでもない、ニュートラルな状態が大事っていうこと。色々調べていくと、OFFの正体と定義していた神経伝達物質セロトニンは、副交感神経を優位にすることが本来の目的ではなく、実は自律神経(交感神経と副交感神経)の相互バランスを担うことだったんよね。ということは交感神経と副交感神経の両極とも適度に優位な中立の状態にチェックインできたら、かなり良い状態で自分と向き合えるのではないかと。自分自身の精神的且つ肉体的なニュートラルな状態を知っておくことって重要やなーと感じたよ。

概念
自分のことを知るってすごく大事なことだと思う。
中にはノムさんみたいに自分のこと良く分かってて、OFFを作るのが上手い人もいるけど。

ノム
おすおす!
あ…OFFOFF!

ハルカ
次は、OFFやニュートラルを知るきっかけについて話してみましょう!

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