山口剛 / Tsuyoshi Yamaguchi
広島支部所属のボートレーサー。91期。センターあるいはアウトからの積極果敢なまくりに見られる豪快なレースぶりが特徴的である。本年度、賞金ランキング2位の状態で対談を行う。
剛とノムとの出会い
ハルカ
剛さんのデビュー当時をきかせてください。
剛
20歳でプロになったので、20年目ですね。若い頃はもうとにかく、派手なレースをしたかったんですよ。目立ちたかったんです。「すげー!」「何?今のターン」みたいな。そんな風に観客から言われるような選手になりたかったんですよね。
どれだけボートがこけようと転覆しようと強気にいってました。レースが危ないから先輩によく呼び出されて怒鳴られたり。生意気だったから、レーススタイルに対して杭を打たれても、反骨精神で腐らずに今年の成績まで持っていきましたね。ボートレースという競技自体、性格的に合ってると思います。
ノム
剛と出会ったのは3年前の2019年6月よね。サイレンサー飲食部門1号店”mon-to.9”で偶然。最初はお店で名物の生牡蠣とレモンサワーを片手に軽く会釈くらいの感じ。でも剛が競艇選手って知ったら、こっちがめっちゃ食いついたよね。ボートレーサーになりたくて試験5回も受けてたから。
ハルカ
休みの日はよく飲みに出られてたんですか?
剛
成績の伸び悩んでいた時でした。1600人中、30~70位以内にはずっと入ってて。ただグランプリ(トップ18人)に残る選手までにはなれない。やってるつもりだけど成績が上がらん感じで。その状態が続くとダレてくるというか、何して良いかよく分からないから、休みに飲み行って、釣りして、パチンコ行ってる時もあった。その”mon-to.9”に最初行った時も、夕方4時ぐらいですよ。
その後、何度かご飯ご一緒して。ノムさんは「80歳までボートレーサーやろうや!とか、俺が賞金王にするけえ!」って言ってくれた。
ノム
偉そうに…!
でも色々考えて提案したね。
剛
僕にとってはめちゃくちゃ良いタイミングで会ったんですよ。ターニングポイントですね。そこからの3年間がもうガラっと変わってるんで。
ノールックでのスタートダッシュ
ノム
剛は2002年にデビューして、2008年はG1共同通信社杯第22回新鋭王座決定戦競走の優勝、2010年はSG第45回総理大臣杯の優勝を経験してて年間獲得賞金は1億10万円。SGをデビュー7.8年の選手が取ることがどれだけ凄いことか。
ハルカ
その後、2011年から2019年は獲得賞金は4,000万円代が続いてて。ノムさんと出会う前の2019年→4258万67位、出会った後の2020年→5940万31位2021年→6406万27位 2022年現在→1億2209万2位、という上がり具合ですね…。
剛
数字だけで見ると、記者の人達から「今年、調子良いのは何故ですか?」って聞かれるんですけど違うんですよね。この3年間かけて様々な変化があるんです。まずは…2020年まではフライング王でした。
ノム
剛がデビューしてから今日までの、フライング履歴全部見たんよ。回数も多いけど、ボートがスタートラインからどれだけはみ出てたかの数値が0.9とか0.8だったから狂ってるなと。0.1~0.3ぐらいだったら、まあしょうがないってなるけど。
剛
0.8のフライングってボート半分ぐらい出てますからね。それ、僕が何をしとるかって言ったら、時計見てないんですよ。何ならスタートする前から1周1コーナー見よるんですよ。まくるで!(早くコーナーを回ってインコースの選手を抜く)っていう気持ち剥き出し。顔面下げて、ハンドルおもいきり引いて、ノールックですね。
ー同爆笑。
ハルカ
そんなことあります?
剛
だから始まる前から勝つことばっかり考えてるんですよ。オラー!っていくから0.8とかのフライングになって、レースを壊しまくってた。お金掛けて楽しむ公営競技ですからね。観客の方に面と向かって「お前、ほんま嫌い!」って言われたこともありました。
ノム
でも出会ってからの3年間は、フライング一切せんくなった。
剛
今はスタートの時、全部を確認できるんですよ。200メートル前から空中にある標識や線と時計を150m、100m、80m、って順番に景色でパシッ、パシッって、合わしていくんですけど。その時ボートは時速80kmですね。
それら確認事項をコンマ何秒の世界で合わしていくことを楽しめるようになった。昔はそこを疎かにしてたから。その次の行程も疎かだったんですよ。勢いで相手を抜こうとしていたのが、今では3周先までを想定しながら、自分が何をすべきかを相手の気配も感じながらレースを組み立てることができる。全体を鳥瞰できるようなイメージです。多分この辺が空くから、こうハンドルを切れば、みたいな感じで結構ゆっくりに見えて。自分の思い描いた通りにレースが運ばれて勝てた時、これはもの凄い快感なんですよね。
リラックスの源
剛
昔は緊張することも多く力が入ってたけど、今は勝つことばっかり考えず、楽しめている感じがあるんですよね。レースも最後の3周目まで闘うことができる。2〜3周の相手の動きを見て抜くっていうのは、ボートレースではスタンダードじゃないんですよ。なかなか難しい事。前を走っているボートの波が全部くるから順位を変えるのは難しい。その変化は、別に難しい技術をやってる訳じゃなくて、レースの見方やレースの方法が変わってるんですよね。
ノム
3周目まで勝負ができるっていうのは、スタート時だけの短期的な集中力だけじゃなくて、集中の持続力が必要だと思ってて。そのためにはリラックスしていないと続かない。リラックス、持続力って意味では、やっぱセロトニンが出やすくなってるんじゃないかな。
ハルカ
身体の中の変化としては、どんなことがありますか?
剛
まず、今は痛いところがない。精神状態が他の選手よりも明らかにいいし。だからそういう余裕が生まれるじゃないですか。多分勝ちたいのはもちろんあるんですけど、その勝敗以外のところでも、しっかりレースの面白みを見つけることができている。やっぱり体調が良くなると、余裕が出てくるんですよね。視野も広くなるだろうし、余計なことを考えなくて済む。
ハルカ
ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンなど神経伝達物質がバランスよく分泌されていることが良いコンディションを作っているんでしょうね。
ノム
どれも原料はタンパク質を構成するアミノ酸なんよ。セロトニンの原料が主にトリプトファンで、ドーパミンの原料はチロシン。剛は良質なタンパク質を摂取しとるけえ。
剛
サイレンサーのTAMPACK(プロテイン)とレモクロ(クロレラ)を常用していますからね。
ハルカ
客観的に見た時にスポーツする時って、めっちゃ研ぎ澄まさないといけないっていうイメージがあったんですよ。とにかく集中、力を集めて余分なものは完全にシャットダウンするような。神経をできるだけ尖らせて、勝負にやっと勝てるみたいなイメージだったんですけど。今の剛さんの話聞いてたら、あれ、なんかそんな感じじゃないなと思ったんです。
剛
そのやり方でも多分できるんですよ。ただ僕はそっちでやってた時は、もうスタートもマインドもはみ出してしまって。全部オーバーしちゃって。研ぎ澄まそうとして、能力以上の事をやろうとしたりしてた。だけど今は制御できてる。研ぎ澄まされて制御ができてなかったので、僕には合わなかったんですよ。